「会場に来てくれた人が、今日の演奏を楽しんでもらえると良いな…。」
「綺麗な音を聴いてもらおう」
「来てよかったと思ってもらえる演奏会にしよう。」
良い演奏をして、
充実感や満足感を得たい気持ちとは別に、
演奏を聴いてくれる人、
会場に来てくれる人達に来てくれた人々に、
喜んでもらえるような演奏がしたい。
こんな気持ちも、抱いた事はありませんか?
料理人が、美味しい料理を人に食べてもらいたいと思うように。
自分の仕事が、誰かの幸福に繋がって欲しいと願うように。
演奏する人が、
演奏で相手を喜ばせたいと思うのは、
自然な欲求であり、同時にすばらしくもあります。
だけど、
「相手に喜んで欲しい」という考え方には、少し注意点があります。
それは、
相手の心情はコントロール出来ない、という点です。
自分の感情は、
自分だけに生まれ出るものであると同時に、
自分以外の人にはコントロール出来ませんよね。
そして、
僕達が誰かから感情を操作されることが無いように、
僕達も、誰かの感情を操作することは出来ません。
だから、
聴いてもらおう、
楽しんでもらおう、
喜んでもらおう、などなど…。
相手に喜んでもらう為に演奏したとしても、
演奏を、どう感じるかは聴く人の自由であり、
僕達は、自分の思う通りに、
相手の心情を操作することは出来ないのです。
「楽しんでもらおう」「喜んでもらおう」と思う事自体は、
誰かの幸せを願う事から生まれた気持ちだから、
尊いものだと僕は思うのですが、
「相手の心をコントロール出来ない」という前提の上で、
喜んでもらえる演奏をしたいのなら、どうすれば可能なんでしょうか?
僕は、
良い演奏をして、相手を喜ばせたいと望むのなら、
自分の影響の範囲を考え、
【自分の事から始める】事が、大切だと思っています。
例えば僕は、演奏する時に、
・音を出す事を楽しみながら、自分を含め、全ての人が音楽を楽しめるよう演奏しよう
という事を決めて演奏に臨んでいます。
これは、
演奏中に何が起きても、
演奏を楽しむ自分に立ち戻れれば、
僕は調子を崩さない事を知っているからです。
「お客さんに音楽や演奏を楽しんでもらいたい」
という気持ちは、僕も持っていますが、
同時に僕は、これまでの経験上、
演奏中に自分のミスを責めだすと、
僕はミスを恐れ、消極的でつまらない演奏になる。
という、僕自身の特性も知っています。
「相手が喜んでもらえるように演奏する」事だけ考えていると、演奏している自分自身は置き去りとなります。
良い演奏が出来ていて、音楽の流れに身を任せているような状態。
自然とパフォーマンスが上がっている状態なら、そのままで構いませんが、
演奏中には、思わぬミスも起きますよね。
そして、ミスをした時に、
ミスをどう考えるか?とか、
どんな風に立て直しをするか?など、
プランを決めていないと、調子を立て直せず、そのままパフォーマンスが下がる事もあるんですね。
人によっては、
切替や立て直しが無意識で出来る人もいるし、そうでない人もいます。
自然に出来るんだったら、それはそれで良し。
そうでないなら、
ミスが起きても崩れないようにするために、
何をどう考えるかなど、
プランを決めとくべきなんです。
相手に楽しんでもらう事は、
自分の影響が及ぶ範囲ではないけれど、
良いパフォーマンスを発揮し、
相手に楽しんでもらえそうな演奏を続けるために、
「何が起きても、音を出す事を楽しむ」など、
自分の思考の方向性を、あらかじめ決めておくこと等は、自分の影響が及ぶ範囲です。
だから、
【自分の事から、まず始める】
というのが、大切なんですね。
演奏者は、
誰かを傷つけようとする目的で演奏をしないし、
聴いている人たちも、
演奏者を傷つけ、批判する目的で聴いている訳じゃありません。
演奏中にミスをしたら、
そのミスを取り返したくなる気持ちも、よくわかります。
ですが、
ミスを取り返そうとしている間にも、
音楽はどんどん進んでいます。
ギタリストのエリック・クランプトン氏は、
≪Think that you are the best when you are up on the stage. When you are off the stage, think that you are at your worst.≫
という言葉を語っています。
意訳すると、
「ステージに上がっている時は、最高にベストな状態だと思って、そして、ステージから降りた時、最低なコンディションだと思いなさい」という意味です。
ステージに上がって演奏している時は、
自分の事から始め、自分のことを最優先に考え、
最高のパフォーマンスをし続け、
ステージから降りた後、
演奏中の反省点や、悔しかったミスなど、
演奏を振り返り、直すべき点を見極める。
そんな風に、
自分の事を優先しても良いのではないでしょうか?
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