※この記事は【練習について考えてみた・その1】の続き物になります。
まだ読まれていない方は、ぜひ前回の記事を読んでからこの先を読み進めてください。
人は、繰り返す事で「動き」の精度が上がってゆきます。
そして「演奏」とは、自分の身体の「動き」によって生まれるものです。
だから繰り返し練習する事で、演奏技術や演奏する時の動きが良くなり、上達してゆきます。
だけど一方、
同じように練習していても、
人によって差が生まれてくる理由は何故か?
僕はこれらの違いは、
・「感覚」を再現するように練習しているか。
・「考察」しながら練習しているか。
この違いによって生まれると思っています。
前回はこのような事をお話ししましたね。
歌うにせよ、管楽器を吹くにせよ、ピアノを弾くにせよ、
楽器を演奏する時に共通していることは
「身体が動いた結果、楽器から音を出している」という事です。
歌は、
声帯はもちろん発音のために口や舌も動きますし、表現の為に腕や足も動きます。
楽器も、
普段以上に息を使う為呼吸に関する動きが強くなるし、楽器を構えて演奏するために腕・肘・手首・指先まで動きます。
僕達は、
演奏する際の自分の「動き」を繰り返し練習しながら、
精度を上げて、より自分の理想とする音が出せるようにトレーニングを重ねますよね。
アンブシュア、呼吸、
腕の使い方、楽器を構えた時のバランスの取り方など、
僕達は、僕達自身の身体の動きを変化させていく事で、
自分の音を良くしていこうとするんですね。
こうして自分の音を良くしていこうと練習する時、
僕達は、耳で自分の音を良く聴いて、その変化を捉えているのですが、
もう1つ、感じ取っている事があります。
それは「演奏している時、自分の身体がどんな風に動いたか?」という感覚です。
例えば指先を動かしてみてください。
目の前で動かさなくても、指が動いているのは感覚でわかりますよね。
演奏している時も同様に、
僕達は、自分自身の身体の動きを、
見ていなくともどこかで感じているのです。
演奏している時の自分の動きの感覚を感じた結果、一体何が起きるのか?
それは
【音がイメージ通り出たり、上手くいった時の身体の感覚を再現しようとする】
という事なんです。
イメージ通り、理想的な結果になった時は、
次も同じ感覚を「再現」すれば、結果も再現できると思い、
「感覚を再現」しようとする訳です。
実はここに落とし穴があります。
「感覚の再現」から「結果を再現」することは、実はとても難しいんです。
なぜなら、
感覚というのは「動き」の1番最後に感じるものであって、
「動き」の質を上げたいなら、「動く」前の「準備」の質を上げなきゃいけないからです。
ここで言う「準備」とはすなわち「考えて動く」という事です。
だから僕は、「感覚を再現するために練習していく」という事をお勧めしません。
先程の指を動かした時、動きのプロセスは、
1:指先を動かそうと考える
2:脳が指先の筋肉に動く為の指令を神経を通じて出す
3:指先の筋肉が伸縮して動きが起こる
4:動いている感覚が神経を通じて感覚としてフィードバックされる
5:動いていると認識できる。
という形になっていて、
思考→動き→感覚の順番になっているんですね。
感覚は一番最後に来ていて、
その前に必ず、思考してから動きが生まれています。
これは、自覚していても無自覚でも同じです。
例えばここで、
もっと力強く指を動かしたり、拳を握りたいと望んだなら、
その動きを実行するには、拳を握る感覚よりも先に拳を作るために指をどんな風に動かすか?という思考が生まれているんですね。
演奏で言うなら、出した音もその時の身体の感覚も「結果」であって、
「良い音」を出し、それをいつでも再現したいのなら、
【良い音が生まれた「思考のプロセス」を再現する必要がある】という事です。
つまり、
【どんな風に構えたり、どんな呼吸を意識してみたり、どんな風にフレーズを演奏しようとした時に上手くいったのか?】
その思考を再現し、動きを再現していくんですね。
だからこそ練習の時に、感覚を再現しようとするよりも、考えていく必要があるんです。
もう1つ、感覚を再現しようと練習するべきでない理由は、
「感覚」から再現しようとする事で、
「不自然な力み」や「不必要な力の入れ方」をも再現しようとする場合があるからです。
感覚というのは強いフィードバックであり、
脳にとっては「そこを動かしている」と実感できる経験値になります。
ですので、
それが演奏する際の不必要な力みを伴う動きであっても、
感覚が返ってくれば、脳にとっては「動き」が出来ているという判断をしてしまうのです。
例えば、息をお腹の底までたっぷり吸ってみてください。
どんな風に身体の感覚は変化しましたか?
お腹が前に膨れて息苦しくなったり、
もっと吸おうするほど、お腹や胸・背中のほうにこわばる感じが生まれませんでしたか?
演奏者にとっても、こわばりや息苦しさは避けたいものの1つですが、
何も考えずに息を吸うと、こうした演奏に不必要なモノが生まれてしまいますよね。
身体の動きから言うと、
お腹が前に膨れるのは、肺に息を入れるため横隔膜が下がり内臓を押し下げるためです。
息の圧力から内臓を守るため、
余裕のある下腹部、そしてお腹の前方に内臓を逃がす動きをしているので、お腹が膨れたようになりますが、
実際には、吸った息がお腹の底まで入っている訳じゃありません。
呼吸をするのはあくまで肺部分であり、
胸郭部や横隔膜、みぞおちの辺りまでに息は収まっているんです。
「お腹の底の方まで吸う」=「お腹の底まで息をため込む」という感覚で動くと、
実際には無理なことをしているので、体に変なこわばりや力み・苦しさが出てきてしまうんですね。
このように、
僕達の身体は僕達の指示に対し、とても忠実に働いてくれます。
たとえそれが無理な動きや力みを伴うものであってもです。
だからこそ、どんな風に動くのが自然であるか?
僕達が身体の動きや解剖学的な事を学ぶ事は為になるし、
演奏者としても、
どんな風に呼吸をしたり、どんな風に身体を動かせばいいのか?
研究し、推察し、それぞれの正しい動きを身に着けていく事が、良い音が出る結果につながるんです。
このため、感覚を再現しようと練習するよりも、
良い結果を生み出した原因を推察し、
身体の動きや、解剖学的な見地から、より良い演奏の動きを習得していくようにに練習する方が、
成長のスピードが速くなるんですね、
とはいえ、
「感覚を無視しよう」と言っている訳では無いので、そこは注意してください。
何かに触れれば触感で分かったり、何かを食べれば味を感じるように、「感覚」を感じるのは自然な事です。
音楽でも、音程やテンポを感じながら演奏する事は大切ですよね。
だから、感覚そのものを無視する必要は無いんです。
ただ、練習する時に、
「上手くいった時の感覚」を再現しようとすると失敗するので、
きちんと観察したり、考えたりしていく事が大切なんですね。
「出てきた音」という結果を変えることは出来ません。
結果が起きる原因にこそ、僕達が関われる余地があります。
脳と体はとても優秀な機能をもっていて、
「動き」を気を付ければもっと楽に自由になれます。
そして、それぞれの楽器の奏法が違うように、
それぞれに合った演奏の仕方というのもまた違います。
練習の場は「自分自身との対話の場」でもあり、
練習でトライ&エラーを繰り返しながら、
より良い「動き」を身に付けて、
より良い音を出せる技を習得していく場でもあります。
練習の場でこそ、
演奏している自分を「観察」し、
自分にとっての正しい動きは何か?を「考察」していく事が大切です。
その為に、
まずは独学からでも、解剖学や体の動きについて学んでみても良いと思います。
今日の最後に、
より良い練習を行うためのマインドセットを1つ紹介します。
それは【練習中は実験中】というものです。
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